岡倉天心の命日に因む天心忌茶会は第十四回を迎え、今年は家元邸で執り行われた。
まず花月の間で、家元により天目茶碗に御茶が点てられ、一円庵に掲げられた岡倉天心の手紙に供えられた。続いて教場において延広真治先生による「三遊亭円朝と茶の湯」と題する講演が、午後は柳家小満ん師匠により、円朝ゆかりの落語「大仏餅」の口演があった。天心の研究をされている茨城大学の清水恵美子氏に参加されての感想をお書きいただいた。また、後日寄せられた感想から一部を紹介します。
花月の間 供茶式
一円庵床 岡倉天心の手紙
黒川真頼 宛
「國華」創刊号のこと
法隆寺金堂壁画
【会 記】
寄付 蓮々斎 短冊
「かがり火の」
一円庵
床 岡倉天心の手紙 黒川真頼 宛
「國華」創刊号のこと
花月の間
床 法隆寺金堂壁画 便利堂
薬師如来
花入 時代鉄製 応量器
花 蓮
香炉 黄瀬戸 竹節
香合 古瀬戸 薬壷形
敷物 不忍池の蓮製
石塚宗通作
箱書 八百善添光庵
長板飾り
風炉釜 朝鮮切合せ
水指 御室焼 菊 形
茶入 忍草蒔絵 赤地友哉作
茶碗 祥瑞
替 信楽 小山冨士夫作
茶杓 不白好
夕顔 象牙製
御茶 池の白
八女 星野製茶園
御菓子 散蓮華 越後屋若狭
扁額 福沢諭吉「大幸似無幸」
脇床 橋本雅邦 干網二白鷺図
平櫛田中 大黒天
教 場
床 夏目漱石
名月一樽酒 秋風万巻書
脇 李朝白磁壷
書院棚 埴輪 髭の男 古墳時代
壁 三遊亭円朝の葉書
岡倉天心の手紙
拝啓兼て願上候正
倉院御話の続き御
序ヲ以て 御廻し被レ下度
願候 又先回の分の
御原稿御手本へ無之
(候也) 絵図の都合も
御座候之時
急て
御回付被レ下度願候
九月十三日 覚三
黒川博士 侍史
●天心忌茶会に参加して
九月三日、宗匠のご自宅で開かれた天心忌茶会にお招きいただきました。残暑の中にも、風の香り、虫の声に秋を感じる光輝く一日となりました。
私にとっては三年前家元邸で開かれた天心忌茶会が初めての参加となります。その約半年前、私は天心研究のため恩師の引率するインド仏教美術の旅に参加し、そこで初めて宗匠にお目にかかりました。そのご縁で、帰国後家元がお持ちの天心の手紙を拝見する機会を得ました。
そのひとつが今回一円庵に掛けられた手紙で、国文学者黒川真頼に宛てた『國華』(明治二十二年創刊)への寄稿依頼に関する内容です。生涯古社寺保存活動に尽した天心は、亡くなる直前まで法隆寺金堂壁画の保存を訴えていました。花月の間に掛けられた「法隆寺金堂壁画」の薬師如来は何よりの手向けだと思います。
橋本雅邦や平櫛田中の名作とともに、私の目を引いたのは三遊亭円朝の葉書です。天心は、洋式偏重の演劇改良運動に反発して一八八九年に発足した日本演芸協会に関わりましたが、このとき参加した技芸員に円朝が名を連ねています。また天心のオペラ《白狐》の作曲を試みた音楽家チャールズ・マーティン・レフラーの遺稿には《牡丹燈篭》の楽譜があり、
円朝の葉書
延広真治先生の「三遊亭円朝と茶の湯」を拝聴し、柳屋小満ん師匠の高座「馬のす」と「大仏餅」を目の前で聞くことができたのは最高の贅沢でした。大学時代、末広亭に通った私にとって、先生方の隣に座りお話させていただいたのは至福のひとときでした。
天心忌茶会に参加させていただくたびに、宗匠との出会いは天心が仕組んだものではないか、とふと思います。お稽古に参加して新しい人の輪が広がるたび、宗匠も天心と同じような求心力をお持ちなのだと感じます。私にとって天心の命日は、江戸千家の一員となったことを大変嬉しく思う一日となりました。