港区南青山にある根津美術館の青山茶会で、宗雪宗匠が弘仁亭で釜を掛けました。披錦斎の展観席では根津美術館が所蔵品の展覧を行いました。茶会を担当された同美術館学芸員・下村奈穂子氏に原稿を寄せていただきました。
根津美術館が運営する会員制の青山茶会は、年四回の茶会と年四回の講座を設けております。このたび、家元には二年半ぶりに青山茶会にてお懸釜をいただきました。御席の始まりの合図として家元が打たれた喚鐘の音は、当館の庭園内に響き渡り、それによってお客様のみならず、離れた茶室を担当していた私共もお茶席へお誘いいただいたような感覚になりました。
喚鐘の音だけではなく、家元には当館の茶室にあわせて、様々な工夫を凝らしていただきました。弘仁亭の三畳の上畳は、大方の茶会では道具や箱書などを並べますが、このたびは本来の使い方に従ってお客様にお座りいただきました。
また、控えの間の襖を開け、末席の方にもお点前がよく見えるようにご配慮くださいました。お道具やお席に常に工夫を凝らされる家元のお姿が、強く心に残っております。
根津美術館が担当する展観席では、流祖であられる不白の故郷・新宮の地にちなんで、「熊野切」を掛けました。この掛軸は、家元が書道をお習いになった書家の植村和堂氏が当館にご寄贈されたものです。そのほか、不白の箱書がある古染付手桶形水指など、お流儀ゆかりの道具を取り合わせました。
御家元およびお手伝いいただいた皆様の心のこもったおもてなしと美味しいお茶に、根津美術館一同心より感謝申し上げます。
根津美術館 下村奈穂子