家元席は道具の取り合わせに趣向が凝らされるだけでなく、大寄せ茶会としての演出で入席者をいつも楽しませてくれる。 今年は月光殿を寄付とし、上段の間に福澤諭吉の扁額を掛け、隣室の書院の間には岩松図屏風が設えられて、一席ごとに篠笛が奏でられる。奏者は藤舎理生師。そして入席の合図として喚鐘が打ち鳴らされた。
本席の床は、幕末維新の立役者の一人、勝海舟の七言律詩が掛けられた。脇床には幕府軍艦「咸臨丸」に見立てられた宝船が置かれている。遣米使節団を乗せた咸臨丸には勝海舟と福澤諭吉が同乗しており、あらためて寄付の扁額が思い浮かぶのである。
炉辺に目を向けると、道仁の十王口の釜、棚は家元が古稀の記念に好まれた逢雪棚が設えられている。地袋の中に納められた七宝龍紋の水指がいかにも美しく映えていた。
古九谷菊紋大皿に盛られた菓子をいただき、古薩摩の茶碗で茶を飲みながら、ご亭主との会話が弾む。
本席 月窓軒
床 勝海舟 七言律詩
千山万峰凝寒晶 風捲微雪壮此行
丈夫従来只血性 不求聞達豈貴栄
加何碌々希如玉 亦落々不成瓦甍
淡然滋味更如水 踏破浮塵一身軽
海舟居士 印
辛未歳晩 途中逢雪
その他の席主は以下の通り。
円成庵……田中宗恵 牡丹の間…森 祺雪
宗澄庵……嶋崎聰雪 不昧軒……松本宗俊
楓の間……白井宗喜・東京女子学園
*東京不白会会報『池の端』69号に詳しい報告が掲載されています。
各席の様子は、春茶会写真レポート のペ−ジでも見られます。