花月の間 天心像「鶴 氅」 大観筆「不二山図
家元による供茶式
【会 記】
■ 花月の間 供茶 呈茶
床 横山大観筆 不二山図
岡倉天心像「鶴 氅」
平櫛田中作
平櫛田中彫刻美術館蔵
前ニ 不白好
三ツ具足
供茶 供菓
花 岩沙参 金水引 女郎花
白桔梗 仙翁 吾亦紅
脇床 天心の手紙
コーヒー器械云々
点前座 長板飾り
風炉 釜 朝鮮切合せ
不白好
鳳凰紋染付皆具
濃茶器 利休好 黒棗
薄器 忍草蒔絵 赤地友哉作
茶杓 名心庵作 己等 茶碗 百碗展 数々 御茶 星授 八女 星野園 御菓子 葛饅頭 銀座 空也 器 古染 四方 舟の絵 替 芙蓉手 ■ 一円庵 床 二月堂焼経 奈良時代 ■ 教 場 点心席 床 東大寺大佛蓮弁紋様 拓本 下に大蓮弁 平安時代 棚 興福寺 観音千体佛 藤原時代
岡倉天心の手紙
岡倉天心の手紙
拝啓 兼而得
御意候コヒー
器械差出候
御試し被レ下候(ハ)ゞ
大幸ニ候
十二月二日 覚三
思軒*老兄
小泉 晋弥 先生(茨城大学教育学部教授)ご講演
教場 床
一円庵 床
本年も昨年に続き、家元邸での第二回目となる天心忌茶会が行われた。床は横山大観筆の不二山図、平櫛田中作の天心像「鶴氅」がその前に置かれた。その独特の風貌はその場を圧しているようだった。家元はまず、般若心経をあげられ、私も祖父の終生の師に対して自然に手を合わせた。続いて供茶がなされた。御茶を御像に運びながら、天心ゆかりの台東区池之端の茶家が、このように天心の顕彰を行っていることに深い感慨をおぼえた。今年のお客様は茨城大学教育学部教授小泉晋弥先生、河合正朝先生、清水恵美子先生、依田徹先生など日ごろから天心に関係の深い方々ばかりであった。
呈茶と昼食の後、午後は場所を移し、小泉晋弥先生に「二十一世紀にこそ生きる岡倉天心の思想—『茶の本』と五浦とボストン」と題して記念講演をいただいた。
小泉先生は、明治のグローバル化の時代に受けた天心の幼少期の教育、国際的な活動を広げていく中で培われた思想やその展開について多くの資料映像を用いてお話された。
岡倉天心は幼少期より英語を学び、東京大学、文部省、東京美術学校校長、日本美術院創設、ボストン美術館東洋部部長というエリートコースを歩むと同時に、国際人としても活躍していく。そして日本美術の源流がある中国やインド、ヨーロッパを訪れることで、アジアとしての個性の重要性を認識した。小泉先生は、五浦の六角堂が天心の広大な構想であるという。ここには茶室と日本庭園、中国庭園、インドの風景の混交がみられ、天心はそこで中国の文人厳子陵のように過ごした。
『茶の本』は、茶の湯の指南書ではなく、天心の深い考察の書、思想書である。小泉先生は重要な文章を引用し深く読み解きながら説明をされた。第一章「茶は一種の審美的宗教、teaismである」。第七章「茶人たちの考えでは、真の芸術鑑賞は、芸術から生きた感化を生み出す者にのみ可能である」。そして第五章「美術鑑賞には同情ある心の交通が必要-美術の価値はただそれが我々に語る程度による」。ここには、天心が体現しているハイブリッド、関係性の重要さが表れているという。世界は関係こそが大事。一方が他方に働き掛けるのではなく双方の、そしてあらゆる方向への連関的なつながりが豊かさを生む。天心の言葉は二十一世紀にこそ生きる内容を持っている。
最後に『茶の本』から一節が紹介された。
「まあ、茶でも一口すすろうではないか。……はかないことを夢に見て、美しいとりとめのないことをあれやこれや考えようではないか」
(平櫛京雪)