歴史ある大徳寺塔頭の中でも、川上不白と最も縁深き寺院が玉林院である。本誌巻頭言にて家元が書かれているように、不白は師如心斎の供として玉林院八世大龍宗丈のもとに参禅修業を続け、如心が「天然」、不白は「孤峰」という道号を授かった。爾来、千家の宗匠と当院の歴代住職との関わりは深い。如心斎や不白が大龍和尚の玉林院での茶事に招かれ、また不白が同院茶室「蓑庵」に如心と大龍を客として招いている会記も残る。(江戸千家便覧69号:茶会記を読む「玉林院の茶会」参照)
今年三月十六日、この玉林院の洞雲庵で、江戸千家家元川上宗雪宗匠が掛釜をされた。大龍宗丈の祥月命日に常に開かれている月釜、京都の日常に溶け込んだ茶会であった。東京から参加された平櫛京雪氏にレポートを寄せていただいた。
茶席 洞雲庵 正客 森住職)
【会 記】
寄付 江戸寛文美人図
八寸と一献
本席 洞雲庵
床 大龍宗丈筆 横物
巌上飛白雲
香炉 黄瀬戸
香合 喜三郎造
花入 キンマ 象紋様 掛けて
花 紅梅 光源氏椿
釜 玉林院常什
棚 不白好
米棚
水指 仁清 白釉
棗 不白好
大燈蒔絵
茶碗 宗入 大黒写 不白箱
替 角倉一保堂 富士絵
茶杓 無学宗衍作 南明軒旧蔵
梅 寒菊 一双
建水 南蛮
蓋置 オリベ
御茶 又玄 丸久小山園
御菓子 黄味瓢 東京銀座空也
器 青磁 竜泉窯
替 九谷
干菓子 みちのく糖 盛岡関口屋
器 曲折敷 萬象作
■玉林院茶会の記
平櫛京雪
方丈の間(寄付)
家元が掛釜された大徳寺玉林院洞雲庵での月釜に参加させていただきました。
玉林院の唐破風の玄関廊をくぐると広縁に出た。受け付けを済ませお待ちしていると、宗匠のお笛が聞こえてきた。その音色は積み重ねられた幾多の思いが、辺りの静寂な空気の中へと溶け込んでいくように思われ、否応なく背筋が伸びた。
寄付に通ると江戸寛文美人図が掛けられ、春旬の八寸で一献のおもてなし。先ほどの緊張がふっと春風に撫でられたように和んでいった。博之様の清々しいご所作にも社中の皆様は目を細められていた。
鴻池家墓所 南明軒(重文)
本席ではまず、大龍宗丈禅師へ荘厳なお献茶が捧げられた。お床には大龍の書「巌上飛白雲」が掛けられ、玉林院ゆかりの南明軒旧蔵の無学宗衍作の茶杓「梅」、流祖不白に因んだお道具、その中には楽家宗入の大黒写し、塗師のものなど幅広く取り入れられていた。続いて献茶に参席された玉林院ご住職、京都の方々にお茶がふるまわれた。私達もお相伴し、京都風に「おかわり」、つまり二服ずつ頂戴しました。
大龍宗丈の祥月命日のお席、格調ある取り合わせの中にも江戸の風情が感じられ、銀座「空也」のお菓子で終日京都の方々と交流が行われました。掛花に入れられた白梅かと思う程の薄紅の梅と椿の光源氏が、当日の和やかな茶会の様子を象徴しているようでした。普段は簡素なお寺の月釜という時もあるのか、この日は久し振りの賑わいだったそうだ。
私は十余年前(平成十二年)東京不白会の研修旅行を思い出しながら寺を後にした。あの時は拝観だけだったが、お家元の真摯な思いが伝わり襟を正した憶えがあった。
千家に連なる流派としての京都でのはじめての掛釜。第一歩というよりは、脈々と受け継いで来られた茶家の自然な着地と思いたい。このご縁は大事に繋いでいかれることを願っています。