●妙高天心茶会に参加して
平櫛京雪
床 金銀交書経に経筒
第九回妙高天心茶会は、平成二十二年九月四日に開催された。東京は例年にない暑さに見舞われたが、この高原も秋の訪れはまだ先のようで、虫の声もかすかであった。しかし当日は夜半よりの雨も上がり、次第に姿を現す妙高山と周辺の山々には季節の移ろいを感じさせるものがあった。
まず、一般茶会に先立ち、お家元によりお心のこもった一碗が天心に捧げられた。天心を終生の師として敬慕し天心像を遺した祖父田中を思い、心より御礼を申し上げます。
お家元の山荘のお席は、天心を追慕される宗匠のお気持ちが深く偲ばれるようなものであった。床には平安時代の金銀交書経の法華経が掛けられ、その前には翡翠色帯びた経筒に、高原の秋草に混じり一本の蓮が供えられていた。
脇床 興福寺千体仏の一つ
蓮花はぎりぎりまでの姿に整えられ、昨夜の雨に打ちしだかれたような風情で、抱一の描く秋草を思い起こさせた。脇床には興福寺千体仏観音菩薩像が安置されていた。数奇な運命をたどりながらも大事に伝来されてきたと思われる優美なお姿に見入っていると「天心も興福寺千体仏を持っていたが、大分傷みがあったと思います」という家元の説明があった。お好みの清風卓がすがすがしさの中に点前座を引き締めていた。
寄付の木陰でレモン水をいただき入席すると、瞬時にして非日常の世界へいざなわれたようで嬉しい驚きであった。
岡倉天心像(平櫛田中作)が納められている天心六角堂
今回も、高田不白会の方々によるお手伝いがあり、近隣支部の方々も多く参加された。そして地元の方々が御茶を気楽に召し上がる光景が見られた。
東京不白会からは、前日のバス旅行も含め六二名程の参加があり、家元席は男性社中のお点前で、二百名近くの方々にお茶を召し上がっていただいた。
次回、妙高天心茶会は十回目の節目を迎えることで、さらなる大きな期待を持つのは私だけではないでしょう。