第30回東京不白会夏期講演会
平成22年6月13日 (日)
於 江戸東京博物館大ホール
シンポジウム「これからの茶道具」
パネリスト 長野 烈氏 金工家
川瀬 忍氏 陶芸家
高尾 曜氏 漆芸研究家
進行 川上宗康氏
三十回の節目を迎える本年の東京不白会夏期講演会は、「これからの茶道具」というテーマでシンポジウムが行われた。
まず、川上宗康氏よりテーマの主旨説明があり、続いて釜、陶芸、漆芸という、茶道具の中でも主要な位置を占める分野のパネリストによって基調講演が行われた。
製作者である長野氏、川瀬氏は、伝来品についての研究や関心を自らの制作活動に取り込みつつ新たな境地に進んでいく姿勢について、また、研究者の高尾氏は、これまで明らかにされて来なかった漆芸の作者達の系統的研究、現代注目される作家などについて、多くの映像とともに解説され、いずれも興味の尽きない講演となった。
続いて、道具を使う立場としての進行役からの質問形式で、パネルディスカッションが行われた。
●シンポジウムの主旨●
かつて新物であった茶道具も、時代を経ることにより、ますます味わい深きものとなり、由緒の美も伴う。よいものは大切に扱われて残され、今日、私たちにとって貴重なる茶道具となっている。その価値は不変であろう。
しかし、よいものだから各時代に茶道具として取り上げられてきたのである。喜左衛門井戸茶碗も長次郎楽茶碗も、時代の先端をゆく新品として愉しまれていた。
生活様式が大きく変わりつつある今日、時代に則した茶道具も新たに考えてみる必要があるように想う。「これからの茶道具」とは、「これからの茶の湯」ということでもある。
●講 演●
茶の湯釜の歴史について、その展開を映写画像を用いて、わかりやすく解説された。室町時代の筑前芦屋の霰真形釜等、初期の釜は茶の湯を目的とするものではなく、厨房用具、湯沸かし用の釜で、これらの釜から寸法、使い勝手のよい釜が見立てられ、茶の湯釜に転用された。茶の湯の流行に伴い、茶の湯専用の釜が指導者から注文されるようになる。多種多様な工夫が見られ、時代の意匠が巧みに生かされた釜が創造された。
しかし、そうした工夫創造は、江戸時代中期頃までで、それ以降は定型化されて現在に至っている。
これからは時代の生活スタイルにあった茶道具が模索されるべきである、と結ばれた。
川瀬忍氏は、位の高いとされる「龍泉窯の砧青磁」を模範として作陶の世界に入り、「南宋官窯」に憧れ、見て歩き、学び、さらにまた、控えめで温かく柔らかい、見る人を吸い込んでいく汝窯の青磁に魅せられていった。そうした自らの探求体験をユーモアを交えて話された。
さらに前時代のものへと関心が向き、研究試作を繰り返して到達したのが自然の造型であった。自然の造型に触発され自らの作品の中に昇華する経過が、豊富な映像とともに説得力をもって語られた。
大学生の時に漆工芸の美しさを知ると同時に、多くの素晴らしい作品を残した名工達の足跡が埋没している状況を知り、独学で蒔絵師についての研究を始める。特に魅せられたのは近世蒔絵だという。
映写画像では、桃山時代の高台寺蒔絵から本阿弥光悦、光琳蒔絵、さらに、不白好とのつながりから塩見政誠、そして原羊遊斎、柴田是真といった江戸時代後半期から幕末、明治に活躍した漆工蒔絵師とその作品を紹介された。茶の湯の世界に取り込まれているのはごく一部であり、蒔絵の歴史は長く幅広い。多くの方々が蒔絵の素晴らしさに接する機会をもってもらいたい、となげかけられた。
●パネルディスカッション●
新しい茶道具を生み出すためには、まず、古きものをよく学び楽しむことから始まるということ。作家の立場からは、古いものに安住せず、時代に即したものを目指していくという作家意識が重要であること。そして創るのは作家、見立てるのは使用する人という指摘等があった。
また、現代生活にあった茶道具の一例としてテーブルで使いやすい向付などの話、炭、火を用いずに釜の湯を沸かす方法など、身近で斬新な提案や意見交換が行われた。
●家元の話
固定観念に捕らわれず、創意工夫をもって自由に物を使ってみること。その難しさや面白さについての経験を話され、勉強になったシンポジウムだったと結ばれた。
●展示コーナー
近世蒔絵の諸作品と、本日の講師の展示品
©2010 edosenke