第28回東京不白会夏期講演会
講演「明るいほうへ」 原 宗明老師
講演「美術館が街を変える」 蓑 豊先生
平成二十年六月二十二日(日)
於 江戸東京博物館大ホール
本年は、雲巌寺住職原宗明老師と、金沢21世紀美術館特任館長蓑豊先生という二人の講師を迎えての講演会でした。まず、最初に家元から、両講師の紹介があり、次に講演に移りました。
講演内容の骨子を紹介します。
(詳細は、江戸千家東京不白会会報『池の端』47号に掲載)
まず最初に、家元による両講師の紹介があった
明るいほうへ
……雲巌寺住職 原 宗明老師
表情豊かに話される宗明老師
原宗明老師は、栃木県大田原市にある臨済宗妙心寺派の禅寺、七百年の歴史をもつ雲巌寺の住職である。松尾芭蕉が奥の細道紀行で立ち寄った寺院としても知られる。
今回の講演は、聴講者が持つ問題意識、悩み、質問等を事前に募ってお送りしておき、老師の心の鏡には、それらの問題がどう映るのかといった形で当日に回答をいただく方法であった。
四十七人から寄せられた質問、悩みの内容は、多岐にわたっている。現代社会のモラルの欠如、対人関係の希薄さ、少子化問題。生きづらさ、自己の性格、老い、病気、死への対処等々。
仏教用語で下語とか着語と言われる短言寸句のコメントを冒頭に置く老師の答えは明快で力強い。
たとえば、このような例がある。
経済格差の拡がる世の中、どう生きたらいいかとの問に、「随所に主となれば一緒皆真。人は皆あらゆるところで主人公となれます」。世の中の基準を単一に捉えていたと気付かされる答え。また、老いへの覚悟、老人の孤独感については、「生まるるも一人、死ぬるも一人、だからこそ一歩でもお互い仲良く、明るい方へ。」と厳しく優しい。
聞いていると、頭の中を攪拌されるような質疑応答、そこに通底しているのは、現実と真っ直ぐに対峙するという姿勢と、明るいエネルギー。
著書の一節。「人生はずっとつづきもの。老後も余生もありません。(略)常にこれ人生のまっただ中。あるがままなる今日受け入れるなら、まさに人生のまっただ中。」 『明るいほうへ』(下野新聞社)
美術館が街を変える
……金沢21世紀美術館特任館長 蓑 豊先生
蓑豊先生:後半は、沢山のスライド写真で、美術館の紹介をされた
普通、人が集まらないと言われている現代アートを扱う美術館の中で、年間百三十万人以上の来館者を記録して注目されている金沢21世紀美術館。講師の蓑豊先生は、その立ち上げから関わって初代館長をされ、現在、同美術館の特任館長として、またサザビーズ北米本社副会長としても活躍されている。
蓑先生が一番に主張する点は、「子どもの感性を豊かにする」ことの重要性である。大切な事は子どもの時にこそ身に付く。子どもが喜んでやってくる美術館を作りたい。そのためには……。
開館時には、金沢市内の全小中学生とその先生方を招待、そのパンフレットに「もう一回券」を二枚付けてリピーターを確保する。美術館を作った工事関係者のネームプレートを館内に設置し、それを見に訪れる人を見込む。様々な業界の集まりに出かけ、商店街の人達や旅行関係者に会い、あらゆる機会を捉えて美術館の話をし、宣伝に努める。
そういった工夫に満ちたエネルギッシュな活動が功を奏して、金沢21世紀美術館は、今や兼六園と並ぶ古都金沢のシンボルとなっているという。しかも、そこを訪れるたくさんの人々による経済効果で街がうるおい、活性化した。
未来を担う子ども達の感性を豊かにすることは、これからの社会を豊かにすること。そのために本物と接することができる美術館を街に作る。この力強いメッセージは社会の在り方を根本から、しかも確実に変えることができる、一つの方法ではないかと思われた。