2011年4月17日
亭主十分の楽しみ
家元招請研究会−【茶事の実践】
井上宗朝(福岡不白会)
初めての亭主 神妙に挨拶
もてなす場もなく、ろくな茶道具も持っていない自分が、研究会ではあるが亭主を務めることとなった。これまで場所も道具もないからと固辞していたが、「場所と道具はうちのを使えば良いし、あなたは茶碗さえ持ってくればいいのよ」という師匠の黒岩宗富先生の一言に外堀は埋められ、また、水屋は先生が、半島は稽古仲間で一緒に看板を取った高田映雪さんが引き受けてくださり、三人四脚でならばと、腹をくくることとした。姉の影響で家元に入門して七年、就職で福岡に来て七年、三年前に立派なお名前を頂戴したが、結論から述べると、家元には申し訳ないが看板倒れの茶事となった。
場所は先生宅の三畳台目の柳絮庵を使わせていただいた。柳絮庵は福岡での茶の湯の師匠、宗富先生のご母堂で、二年前に亡くなられた黒岩宗如先生の庵号で、今でも柳絮のごとくふわふわと見守ってくださる感じがしており、最初の茶事をここで出来た事はとても幸せであった。いつもやさしく、時に厳しくご指導下さり、また、流派を超えいろいろな方をご紹介下さり、茶の湯の楽しさを教えていただいた。
床には、宗富先生が家元から頂戴した色紙を軸装したものを掛けさせていただいた。
「只 ひたすらに 茶の湯の心」
憧れの境地だが自分の信条から一番遠い心持ちであり、いっそう茶の湯に励まねばならぬと自分への戒めとした。茶碗は、叔父の正雄が就職祝いに福岡でも茶の湯を続けるようにと贈ってくれた唐津を用いた。大ぶりの茶碗で濃茶にはもってこいであった。茶杓は、看板をいただいたときにお礼として稽古仲間五名で宗如先生に差し上げた「四睡」の茶杓から、自分の干支にちなんで「虎」を使わせていただいた。
渾身の料理も並ぶ
宗富先生から「話の種となるから何かお料理一品作ったら?」と言われ途方に暮れたが、行きつけのバーで簡単にできるつまみについてあれこれと相談し、黒豆のクリームチーズ和えと燻製を作ることとした。黒豆とクリームチーズはただ同量を混ぜるだけであるし、燻製は下ごしらえをした材料をセットし燻製チップに火を付ければあとは待つだけで簡単にできる。間違いなく話の種になると意気込み研究会に向けてお点前そっちのけで何度も練習した。大学の教え子達からは「先生また燻製ですか! 僕たちを燻し出さないで下さい」と言われつつ、「まぁまぁ」といろいろ毒味をさせ、燻製する材料をチーズ、ゆで卵と海老に決定した。
正客次客は気心の知れた福岡不白会の姫野宗和さん、青木宗薫先生のお二人、お詰めの随行の播磨さんとは直門を離れて以来八年ぶりの再会で、人も場所も道具も裏方もすべてが万端に整い、あとは亭主である自分次第となった。結論はすでに述べている通り失敗の連続であったし緊張してあまりよく覚えていないが、なにせ楽しかった。お三方には申し訳ないが、一番楽しんでいた気がする。亭主十分の楽しみでなければ良いのだが。
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