江戸千家 >  不白会だより > 2024年 > 8月

2024年8月26日

「私と茶の湯」

上野勝雪(仙台同好会)

 六十代で医療ミス、八年間入退院繰り返す。強度の鬱、自殺願望、暴力、依存症、沢山苦しんだ。
 治療は、長年続けた化学の薬を止め、自ら集中作業治療を試みる。是が一番直してくれた。絵画、彫刻、金継、茶道、詩、等々。どれもこれも作業中は鼻水と流れる涙と戦い作業を続ける。中でも袈裟(別名糞掃衣)作り、無言で針を動かす。一針一針縫う。一つ作るのに一年、六枚作る。袈裟(九条)は、姉妹の棺に入れた。でき上がった袈裟の裏に青山俊菫老師、愛知専門尼僧堂堂長・無量寺住職に書いていただく。そのとき青山俊菫老師より、而今翁という名をいただく。
 爾今爾後 老いてこそ 華やぐ。
 病みてこそ華やぐ。今ある命を楽しみながら、今、このときを精一杯大切に生きる。
 又、茶道の水差しから結界、茶杓、香合、東北災害で破損した抹茶茶碗の金継ぎをし日常の楽しみとしている。稽古場には蓬を摘み、おはぎを作る。手作りの桜の塩漬けを載せる。
 又、ごぼうの油煮にグラニュー糖をふりかけ稽古場で主菓子とし、自作の季節の木工細工の香合や掛物を持参。自宅庭には山野草。稽古には人数分持参。これ皆自分の茶道に向かう贅沢な時間。
 自動車事故で歩くこともできず、三年後に稽古場へ杖持参。リハビリのジムで今は正座できるまで快復。点前の時は襖につかまり、障子に助けられ茶を点て、正座から立つことができず、水屋まで下げることができないが、何より、月二回の稽古がこんな姿でも待ち焦がれる。
 一時は稽古仲間に茶碗や棚、花入れ、掛物を車で運びもらっていただいた。老後に体力と生きる力をくれるものは茶道であろう。入院中は自作の茶箱持参、抹茶を楽しみ、先生や看護師たちに一服差し上げ、友とドライブでは茶箱持参で一服。身近に茶と花と彫刻刀に向き合い、死が間近な老後に、茶道に感謝のみだ。

カテゴリー:茶の湯を楽しむ 「「私と茶の湯」」のリンク