江戸千家 > 会報から(101号) > 不白会だよりから

■不白会だよりから

【私と茶の湯】
   
●人生の拾いもの………茶の湯にほれ込んで

          大黒裕明(青森不白会)
 「準備から片付けまで、すべてが稽古ですよ」
 入門の時にそう言われたので早めに来たつもりだったがもっと上がいた。既にお茶を篩にかけ終わり、床の間には花が活けられ茶器も調えられている。恐縮して一礼した。炉から香の煙がほのかに立ち昇り、部屋には甘美が漂っていた。深く息を吸うと外気で冷えた身体が心なしか温まり、肩から緊張が抜けて快い。「軸を掛けるのを手伝ってください」と言われるまま、異次元の世界に浸されていった。
 それまでは茶道なんて窮屈で自分の棲むところではないと勝手に思い込んでいた。だが、ほんの気まぐれで覗いてみると意外にも自由で寛げる場だと無知を悟った。確かに作法は難しく足のしびれも苦痛ではあるが、「無理に我慢する必要はないんですよ。痛くなったら適当に膝を崩してもよいし、基本的なやり方を念頭において変化をつけるのは風情と言って素晴らしいことなんです」。すっかりほれ込み、以来通うことに決めた。
 まだ初心者である。それでも師匠に連れられ仲間と何度か茶会にも出た。有り難いことに間違えても咎める人はなく、既に面識のある人と思わぬ出会いをして共通の趣味を喜ぶことも経験した。
 やがて全員が毛氈の上に並んで膝を正した。当番の人が色付き始めた紅葉の葉を模った菓子を運び、茶を点て始めた。順番が来て私にも配られ、ぎこちなく器を口に近づけると爽やかさが鼻をくすぐった。飲み干した後、ふと思い出して数日前の失敗談を披露したら笑いを誘い、座が和んだ。これから憩いのひとときが展開する。ここは時間の贅沢を楽しみ、五感を総動員して身近にあるものの美しさを再認識するところらしい。見落としていた人生の楽しみを拾い上げるのは嬉しくて心が膨らむ。釜の湯が鈴虫のように鳴き、秋の深まりを一層引き立たせた。香と抹茶の程よく混じり合った匂いに包まれ、至福が訪れた。

●曇り空での満月茶会………お月見の会

           小学六年 田上結貴
「あと三つ寝たらお月見お茶会だね」と、月や雲の動きを見るのが大好きな四歳の弟が待ちに待っていた当日、台風の影きょうで残念ながら曇り空でした。すると、弟が、「お月様を作ったらいいよ」と言ったので、私が広い紙に、サンボウに積み重ねた万頭とすすきを月が見ている絵をかき、かべにはり、私が本物のお団子を盛り祖母が庭のすすきと後藤さんから届けられたひがん花や秋草をかごに生けて絵の下にそなえて雰囲気を作りました。
 いつも一緒にけいこをしているおばちゃん達十四人で楽しく夕食を食べて七時から会が始められました。
 最初に先生が略盆点前で薄茶を一服お月様に供えられました。
 計画では庭のデッキに赤い毛氈をしいて、月を眺めながらやるはずでしたが、お部屋で亭主役とお客役の二人組になって略盆点前のけいこをしました。三種類のダンゴもとてもおいしく食べて一服いただきました。
 弟も口の回りにお茶をつけて「おかわり」と言ったので皆大笑いしました。にぎやかにおけいこが終わるころ、十三夜の月が顔を見せ私達を喜ばせてくれました。
 毎月一回のお茶のけいこですが、いろいろなやり方を教えてもらえるので、とてもうれしく、クラブ活動でつかれて帰ってもお点前をがんばっています。
大きな満月の下
 大きな満月の下で
お盆点
 お盆でお点前


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