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喫茶往来


 宗雪宗匠の呼んだり呼ばれたりの茶会の様子を紹介します。

相伝式

 拝啓 先日は上伝のご相伝を賜りました事、誠にありがとうございました。
 式の折は行き届いた御庭、御部屋の設え、御道具の見事さと手入れの良さ、厳かな御点前、そして先生やお世話下さいました方々の思いやりに満ちた御言葉等々、感動しきりで、思い出す度、身は締まるのに心が弾むといった可笑しな余韻を愉しんでおります。
 仕事柄、茶室へ通される事もあり、せめて恥ずかしくない程度にと習い始め、茶道の中の多様な芸術性や精神性に喜びを覚え今日に至ります。また、なにかと競い合う事の多い日々の中、茶の湯は他人と競わなくともよいことが心地良く、今も稽古を楽しく続けられております。
 私にとって茶の稽古は人と仲良くなる為であり、茶の湯は自他共に楽しむ為のものとなりました。
 人を招き、主客共に楽しいひと時を過ごす為、互いに努める一座建立の精神を旨とし、その気持ちを常の生活の中にも求めてゆきたく存じます。そして願わくば、苦いと思われている抹茶の中の甘みを堅苦しいと思われている茶道の中の楽しみを伝えてゆければとも……。
 誠に忘れ難い一日となりましたことを心より御礼申し上げます。
 今年も残りわずかとなり、寒さも増して参りました。先生にはどうか御自愛下さい。また御家族皆さまにも宜しく御伝えいただければ幸いに存じます。
 令和三年十二月九日                 上原宗与

二月の月釜

 先日の御茶のおもてなし、心に染み入りました。森鷗外記念館見学を口実に、お玄関先までご挨拶をとお伺いいたしましたところ、御家族の中に入れて下さった不時の茶。二月の利休忌にちなんで整えられた月釜のお道具組。床には利休の消息に長次郎の黒茶碗、銘「苔衣」。消息の中「今一度はしだて(橋立)の極上を」というくだり、利休の心中と、このコロナ禍、困難な時に不時の茶で私共をおもてなし下さった家元のお心内とが重なり、感じ入りました。心より御礼申し上げます。 飛鳥川手かと思われるゆったりとした瀬戸茶入。 啐啄󠄁斎の箱でした。茶杓は江岑宗左で優美でしなやか。この一座に会している何ともいえない満ち足りた感動に包まれました。私が歳を重ね最後に思い出す茶会は、御家族でおもてなし下さったこの不時の茶かも知れません。本当に有り難うございました。雲鶴先生、新柳先生にも御伝え下さいませ。春寒はまたひとしほと申します。御健康には留意なさいますように。
            かしこ
 二月二十五日     平櫛京雪

三月の月釜

 拝啓 先日は月釜にお呼びくださり、ありがとうございました。
 夜のお稽古では目にすることのなかった日中のキラキラとしたお庭にいざなわれた後に、墨の跡から伝わる臨場感のあるお手紙を拝見したり、好きなぐい呑みでお酒を飲んだり、家元の心暖まる美味しいお茶をいただいたりしたことが印象に残っています。このような最高の体験を、私にとって一番大切な家族と共有できたことが大変嬉しく幸せでした。
 この度卒業を迎えることができました。悠久の時が流れ「人生の夏休み」とも呼ばれる大学時代に、家元のお茶と出会えたことは私にとっての宝です。
 お稽古に通い出してからは、家元が撒かれた種を拾いに行って自分なりに花を咲かせる毎日に変わった気がします。自分では手に取ることのなかったであろう小説や詩集にふれたり、少し寄り道して漱石の塔頭や西田幾多郎のお墓を訪れたり、月をゆっくり眺めるようになったり、循環性のある消費を意識したりするようになりました。お茶によって自分自身で自分の人生を幸せにする術を発見できました。
 そのような中で、今回月釜で家元が私に言ってくださった「青春を満喫しましたか」というお言葉にはグッとくるものがありました。どうぞ今後ともよろしくお願い申し上げます。          敬具
 三月十七日                     中野はな

新宮稽古(三月二十一〜二十三日)

 私は明日の早朝足摺岬に釣りに行きますので、取り急ぎ今回の写真をお送りします。                    瀬古伸廣

春稽古桃栗三年柿八年
奥山に熊野桜の散りし跡
太地町イルカと戯る入江かな
          ひろし

四月の月釜

 拝啓 この度は月釜に参加させていただきありがとうございました。ご同席の皆さまと共に楽しい時間を過ごすことができました。
 表門を入るとそこはまるで別世界のようでした。苔と飛び石の美しさに心を打たれ、うららかな春の光の下、新緑もまぶしく、心洗われる思いがしました。寄付の放庵のお軸にぽっと心が温まり席入り前の緊張感をほぐしてくれました。一円庵は正に市中の山居のお茶室だと思いました。席中座していると、流れた時の堆積を肌で感じられるような気がしました。お稽古で使われている弟子の方々が本当にうらやましいです。
 石州公の消息は端正である上にどことなく理知的で素晴らしかったです。炉の灰がとてもきれいでした。私も灰作りをして三年になるのですが、なかなか上手にできません。そしていびつな釜。工人の苦労も伺われて見ていて楽しかったです。長沙窯の香合は味わい深く印象に残りました。奥様のお料理は春をたっぷり感じられ、とても美味しかったです。蛍烏賊が美味しくてついお酒が進んでしまいました。
 今回始めて江戸千家流のお手前を拝見しました。他流派のお手前を拝見するのは興味深いです。各服点の濃茶も初めてだったのですが、なかなか贅沢なものですね。洒脱なデザインの黒織部茶碗は印象深かったです。お茶杓からお祖父様の筋の通ったお人柄が窺われた気がしました。
 すっかり心は満ち足りました。鎌倉の拙宅にも是非また足を運んでいただければ幸いです。まだ寒の戻りもあるでしょうからどうぞご自愛ください。                       敬具
 四月七日                     石川比呂志

五月の月釜

 拝啓 新緑かほる好季節でございます。本日は五月の月釜にお招きを賜り、まことにありがとうございます。お茶席の雰囲気をそのままに帰宅して思い起こしております。茶席の流れ一つ一つがさながら別世界に誘われている様な心持ちに慕っております。少人数で、気持ちの通い合ったお茶事を心ゆくまで堪能させていただきました。
 お笛の理生先生、そして大前さんともご一緒させていただきました。内山さん共々楽しいひと時でございました。教場での思いがけないお笛の演奏会は、折りからの季節の色に溶け込んで心洗われ、理生先生が奏でる「城ケ島の雨」はその気持ちに染み入りました。宗匠自らのお茶事の進め方や所作に、万感の思いで私自身の身の置く幸せを感じました。心より感謝申しあげます。梅雨入りも近いように感じます。宗匠には益々のご自愛をお祈り申し上げます。御令室はじめ皆々様におよろしくお伝え下さいませ。                  かしこ
 五月十八日
                           落合文雪

Dear Kawakami Sensei

Thank you for the invitation to your beautiful Tea house and home.It was a very special day.
Sincerely
Jeannette Ohmae
5/20/22
(ジャネット 大前)

出版祝

 晴れやかな週明けとなりました。
 先日はお招き頂きまして、ありがとうございました。此の度の出版をお喜び頂いて、これまでの苦労が報われた気持ちでおります。
 ふとしたことで始まりましたプロジェクトですが、七年の間にいやな思い出は何一つございません。

16、17世紀の日本の手紙」
Institute of East Asian Studies,
University of California, Berkeley

時間がございましたので本文中の論文と手紙の解訳は丁寧にチェックできました。ところが最終段階の昨年晩秋からクリスマス休暇で印刷所が閉まってしまうと、本当に急に忙しくなりました。出版が決まってもさらにコロナで難しいこともございましたが、その中で出版できたことは幸運と思えます。
 お家元が楽しい後のお茶が一番とお話下さり、共著者増田様、雲鶴様、新柳様と御一緒にお茶を頂き、皆さまがおそろいでお祝い下さったことに、とても感激致しました。心から感謝申しあげますと共に、さらに勉強を積んでいきたいと思っております。
 五月二十九日
        谷村玲子

六月の月釜

 昨日は山崎様のご縁で思いがけず家元のお茶会にご一緒させていただき、みなさまと共に素敵な時間を過ごさせていただきましたこと心から感謝申し上げます。
 絵を描く事もお茶を続けることもそこから素晴らしい出会いをいただきいつも嬉しく思っております。
 家元に点てていただきました一服のお茶は心の奥に沁みて記憶に残り、お料理、薄茶とどれも楽しいひとときでした。ありがとうございました。 「自宅の茶」アトリエで小さなお茶会を夢みたいと思います。
 六月十六日
                           荒井恵子

六月の月釜

 梅雨の侯 野辺の草花や木々の木立も潤いを纏って生き生きと輝いております。
 一昨昨日は、家元、新柳先生、奥様のお心のこもった茶事にお招きいただき有り難うございました。異なる流儀の茶事でしたが、遠州流前家元の宗慶宗匠とのご縁もあると承り親しみを感じさせていただきました。
 お茶事では三点、印象深く心に残ったことがありました。
 一つ目は、強烈な心象が残っている本阿弥光悦消息の掛物です。家元を交えた腰掛歓談後の初席入り時は、八と七日しか読み切れませんでした。炭点前の後に消息の解説をいただき、文末に千宗旦を示す文字『千』が入っていることをお伺いし、貴重な掛物を眼前に拝見できたことに感謝しかございません。
 二つ目は、家元の装いです。寄付にお迎えいただいたときから点心席までは着流しのお姿。後入りの濃茶では、袴をお召しになっていたことです。
 着流しでお迎えの折は、千家の思いを強くしました。中国王朝の大夫が持つ牙笏のように大きな羽箒を使った所作も興味深く拝見しました。後入り後の袴姿の装いには、ご流祖以来の武家の茶家なのだとの思いを深く感じました。
 三つ目は、炭点前での香合拝見の際に、私の出服紗が家元前まで進んだことです。私は慌てましたが、家元から『夏向きの涼しげな服紗』とお言葉を添えていただきました。お礼申し上げます。
 点心は別格にて奥様の見目好く美味しいおもてなしに感謝いたします。特に汁椀はアスパラガスと牛乳の調理と伺い驚きました。
 点心席も家元のご同席で、旬の食材と美味なお酒とともに青森の思い出をお聞かせいただきました。
 「自宅の茶」に対する家元のお考え——本来の茶は、かしこまった茶室で営まれるものではなく、「日々の生活の中に即して伴うもの』との教えと解釈いたしました。コロナ禍なので茶会ができないと嘆く事はない。個々の家庭の事情に合わせた設えの中に茶の湯が展開できればいいのだとの趣意に、大変に感銘を受けました。
 私も庵号の典拠である笙磬同音を心に置いて、お教えの「自宅の茶」を心し茶道に精進していきたいと思います。
 長文のお礼となりました。江戸千家の益々のご繁栄と、家元ご一家のご健勝を祈念申し上げます。
 六月十八日
                      笙磬庵 吉村宗志 


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