前略 先日はご連絡も差し上げずお伺い致しまして失礼しました。ご挨拶だけでもと思っておりましたが、大切なお稽古のお邪魔をした上にお点前を戴き、不作法ながら美味しく頂戴致しました。誠に有り難うございました。
翌日は紀伊國屋サザンシアターで『熊楠の家』を鑑賞して、東京での日程を終え帰宅しました。取り急ぎ御礼を申し上げます。 草々
六月二十九日
紀伊田辺市 𣘺本常司 邦子
先日はお暑い中お出掛けいただき美味しいお茶を御馳走さまでした。空也の生菓子をいただきご配慮有り難く御礼申し上げます。その節スナップしました写真を同封、送らせて頂きます。いつも同じ様な作品でお恥ずかしいですがご笑納ください。
原田さんの紹介で先生と知り合いになり大変有り難く思っています。 七月一杯は暑苦しい日が続きますが、先生も御身大切にされこの夏を過ごして参りましょう。又お目にかかれます事を楽しみに致しております。
七月十八日
川又正卓
秋風さわやかな季節となり夜ごとに虫の音がしげくなってまいりました。
この度は、自宅の茶事においで下さり、誠にありがとうございました。私にとって一生の宝物となる経験を持つことができました。
不白作の水指(銘 千代能)を通し、歴史への興味やその人の思い等々いままで知らなかった世界を知ることができました。お茶を通してさまざまな事象や人とのつながりが生まれる楽しさ、おもしろさを感じ感謝しております。
未熟者でありますが、今後も心して勉強してまいりたいと思っております。秋風と共に寒くもなってまいります。どうぞお身体大切にご慈愛下さいますように。
九月二十日
渋谷千雪
菊花薫る季節を迎えておりますが、神戸は小雨に肌寒さを覚える今日でございます。
過日は神戸にお越し頂きまして誠に有り難うございました。何のおもてなしもできずに申し訳なく悔いております。何卒お許し下さいませ。
昨日、社中の皆さんと伊丹の柿衞文庫「俳諧と茶の湯」展に行って参りました。見覚えのあるお軸などもあり、不白の時代の俳諧の景色がリアルに垣間見えて大変興味深く拝見致しました。岡田館長にもご挨拶ができまして、勇気を出して行ってみてよかったと思います。電車に乗るのは一年半ぶりでしたが、社中の皆さんが付き添ってくれたので心強い遠出となりました。
いつも励ましと勇気を頂きまして、心より感謝申し上げます。寒暖の差が激しき折、くれぐれも御身お大切にと念じ申し上げます。かしこ
十月十二日
渡辺宗倫
例年になくさっぱりしないお天気が続いております。このたびはお招き下さりありがとうございました。念願かない、一日だけ晴れ上がった空と同じように晴れ晴れした気持ちでお伺い致しました。
お待合の夏目漱石の手紙、腰掛け待ち合いからのお庭の眺め、一円庵のお掛け物のお話、炭の香、お香名をお尋ねするのを忘れましたが……。会席をテーブル席に案内してくださったお心遣い、そしてお料理に松茸の香を感じた時の驚き、菊の酢の物の絶妙なお味、従姉の庭のものだという翡翠色の銀杏、お心のこもったお料理の数々……。夢のようなことでした。
そして躙り口から見たお床の花の色合い、瞼の裏にくっきりと残っています。家元のお
濃茶、お薄、奥様の半東で時を忘れるようでした。思わずもれたように従姉の次男がこんな楽しいお席は初めてと素朴な感想を口にしていましたが、私も全く同感でございました。日頃はついついお点前の手順などに気を取られて大切なことをないがしろにしていることを思いました。ありがとうございました。
この長雨はまだ続くようでございます。家元さま、奥様、みなさま恙なくお過ごしくださいますようご健勝を心よりお祈りいたします。
かしこ
十月十九日
長岡市 高野順子
このたびの九州ご旅行、日一日と秋が深まるときでございましたね。
そのご多忙ななか、私ごとき老人にお逢い下さり、まことにまことに嬉しくも有り難いことでございました。ホテル到着から帰宅まで、申し分なく二百パーセントのおもてなしを賜り、御礼の申し上げようもございません。
それにしても劉生にあんな絵があるなんて面白く、拝見しただけでなく翌日劉生の略伝を見ましたら東洋風な傾向をもった、ということが書いてあり、そういえば麗子も衣装からして日本だなと気付きました。
そしたら手元に麗子の切手があり、使わずに持っていたことを思い出しました。たった五枚しか持ちませんが、私は生涯使うことはありますまい。同封させていただきます。
向寒の折、ご健勝を祈ります
十月三十日
福岡市 田中 孝
家元と御令弟の三郎氏の母校開成学園は、質実剛健の気風と同窓生の纏まりの良さで知られています。各地域に同窓会が組織されており、その一つである地元の上野開成会の会員を対象とした「江戸千家家元邸見学会」が十一月十三日に開催されました。
十八名の参加者の大半はお茶室に入るのが初めてのようで、日ごろは威勢の良い面々が珍しく緊張した面持ちで控えていましたが、同窓会の気安さ、家元邸の心休まる雰囲気などですぐに打ち解け、一献が始まると大変な賑わいとなりました。呈茶の席では多くの参加者が二杯、三杯とお代わりをするなど、心から楽しまれた方が多かったようです。
これをきっかけに歴史のある街として知られるここ上野の人々に、茶事への理解を深められることを期待しております。
木村雄二
今日も雪が降っています。あの日のように。
玄関にお着きのとき「わ 家元さまだ」と声を出してしまいました。雪に笑顔のお姿がうれしくてあのご尊顔は忘れません。研究会課題のお陰で宗匠がおいで下さるという人生終盤に最高の体験をさせていただきました。
おかしなことをいたします今の私ですが、只々うれしくて幸せでございました。開炉の茶事を持ったことで家中に空気が流れました。家族の事で気付くことがありました。茶道を学び続けていてよかったねと亡き主人も言ってくれたはずです。これからは友人知人に声をかけてみたいと思っております。
遠いところにおいでいただき本当にありがとうございました。
日々寒さ深まります。お健やかにお過ごしなさいますようにお祈りいたしております。
十一月二十四日
盛岡市 高橋宗津
少し寒さを感じながら水のタップリ打たれた露地、掃き清められ青苔の端に吹き寄せられた落葉、まず感動のはじまりです。
信尹のお手紙は圧巻です。内容も面白く最高! しずかな香に優雅な桃山の世界へ……。瓢の炭斗の小さな口、何気なくなさるお点前に見ほれ、後に大きな釜の蓋が開いた時、尚更に炭斗の口を思い出しました。香合の茄子(成す・為す)何か意味が? わからない事が多くて、楽しくて、旧友(津堅さん)との語らいもでき、
大変楽しい茶事経験させていただきました。
今年も一年楽しいお茶をありがとうございました。いつもながら奥様の素敵なお料理感心しております。色々有り難うございました。 謝々
十二月二十二日
細野豊子