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■水屋日記 第15回

畳のこと(後編)

川上新柳

 前回に続き、柳井畳店に取材させていただいた畳の修繕の流れです。家元邸内での作業を直に見せていただきながらお話を伺いました。全ての畳を剥がし、畳床の修繕と調整、畳表とヘリの張替をして、各茶室の元の位置に敷き直します。しばらく茶室内には藺草による新しい畳の香りが漂っていました。

■畳の修繕の流れ

①畳表の端を外す

 畳の短辺側の端の、畳表を畳床に縫い付けてある糸を抜きます。

②ヘリを外す

 長辺側のヘリも、糸を切って外します。

③端の板部分を調整して寸法を直す

 畳表を外すと、畳の端には板が付いています。そこに釘を差し込み槌や手で微調整します。

④高さ調整

 畳床の盛り上がってしまっている部分を削り、逆に凹んでいる部分にはワラを重ねて糸で固定して全体が平らになるようにします。
 畳の下に何か敷いたりする足し算は完成後からでもできますが、引き算的な作業は完成後はできなくなりますので、この段階で行います。 

⑤短辺の厚み調整

 ヘリ部分にワラを沿わせて縫い付けて厚みを調整します。

⑥畳表を乗せて位置合わせ

 畳表を畳床を覆うように乗せて位置を合わせ、短辺片側だけ釘で固定します。

⑦たわませてなじませる

 畳床をたわませつつ、畳表ごと踏んでなじませます。畳表を十分にひっぱれるようにするためです。
 普段硬い板のように思われている畳床ですが、この時は初めて見る人にとっては思っている以上にたわみます。

⑧短辺反対側も釘で固定

⑨裏返す

⑩短辺の畳表を縫い付ける

 畳表を畳床に縫い付けながら槌で叩いてしっかり固定していきます。両辺ともとめます。

⑪表に返す

⑫畳表の掃除

 表面の埃を取り、霧をかけて少し濡らした上でブラシ掛けをします。

⑬藺草の裁断

 長辺側の端の余分な藺草を切り落とします。

⑭ヘリを縫い付ける

 長辺の両端にヘリの布を内側を見せる向きでとめて、「ヘリ紙」(ヘリの形の芯になる型紙)をその上に重ねます。更にホゾと呼ばれる縫った糸が浮き上がるのを防ぐ緩衝材を重ねます。これらを糸で縫い付けます。

⑭-1

⑭-2

⑮紙に折り目を付けてヘリの幅を定める

⑯縫い付けて完成

 上述の布、ヘリ紙、ホゾをまとめて折り返し、縫い付けると完成です。埃を取るなど掃除をし、畳を元あった場所に敷き戻します。

■畳床の製作過程(手製と機械製)

 手製の畳床は、ワラを配して(縦横に並べて)、縫って、引っ張りながらかかとで踏んで締めることで、固めていきます。
 機械で作る場合は、ワラを下、真ん中、上のパーツに分けて、半流れ作業で作っていきます。機械の中で動いている工程は手作業に似ています。縦横の五段配(ごだんばき)という構造になっています。最近は機械で作られた畳床が多いです。
 畳床は三〇〜四〇センチのワラを六センチ以下にまで圧縮しています。軽トラック満載にワラを積むと三六〇キログラムほどになりますが、それが畳床六枚くらいの分量です。  

■手縫いと機械縫い

 手縫いの場合は、⑭で畳の端を糸でとめる際に、上下に貫通させて固めるため、機械よりも時間がかかります。機械縫いでは、下の部分しか糸でとめません。ミシンのように上糸と下糸が引っ張り合っているような縫い方です。普通の畳なら機械でも十分な強度を出せますし、手縫いよりも早く作業が完了します。新規の畳などは四方が弱いので機械では充分に固められず手縫いが効果を発揮します。

【取材を終えて】

 熟練の技術のごく一部ではありますが、拝見する事ができてとても感動しました。重そうな畳を一人で返すなど自在に操ったり、厚みがある畳に針を正確に通す技術など驚く瞬間も多々ありました。
 ちなみに狙った所に糸を通せる技術は予想以上です。畳に糸を貫通させて五円玉を縫い付けた後、その糸の通り道を反対向きに針を通して糸を抜き、五円玉を外してみせてくれました。また「ムラがある」、「はっている」など職人同士の会話の独特の言い回しは、それ自体にも趣がありました。
 今回の取材を経験して、普段何気なく使っている畳に対して、思い入れと大切に扱おうという気持ちとがこれまで以上に高まりました。

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