江戸千家 > 会報から(135号) > 水屋日記(10) 「小習 (3) 抹茶のこと」

■水屋日記 第10回

小習 (3) 抹茶のこと

川上博之

 ここ一年のシリーズで書いている水屋の支度ですが、今回は茶の湯の一番の中心でもある茶そのものについてです。
 京都、宇治の丸久小山園さまにお話を伺いました。元禄年間に初代が茶の栽培と製造を手掛けた事に始まる歴史ある茶園です。宇治市内の工場や京都市内に複数の直営店を持つ他、全国各地にて同園の茶が販売されています。

・抹茶の保管について

一般家庭での保管は冷蔵庫が良い。かつては八〇〇メートルくらいの山中に保管した。茶葉を傷める要素としては光、温度、湿度が主に挙げられる。外から匂いを吸ってしまわないように、缶の蓋はしっかり閉めておくと良い。
 冷蔵庫から出した際は、缶を開けた時に湿気を吸ってしまわないように、少し置いて、常温程度まで上がってから開けると良い。未開封で長期間の保管が必要な場合は冷凍庫でも良い。

・飲む際、点てる際に

泡をしっかり点てた茶と泡を抑えた茶

 自分の好みを大切にして欲しい。水、濃さ、温度、茶葉の銘柄、茶葉の状態、点て方は、味に影響を与える
 水を数十種類用意して抹茶を飲み比べた結果、一般的なミネラルウォーターが良いという結論が出たことがある。海外のミネラルウォーターは硬水軟水の違いがあるので注意が必要である。水道水はカルキを抜いて使うと良い。
 湯の温度は夏なら七〇~八〇度、冬なら七五~八五度くらいが良いとされる。
 泡をふわっとたてるとまろやかに、抑えると苦味や渋味がちゃんと出る。どちらが良いというわけではなく好みの問題である。泡に意識を向け過ぎても良くない。点てる際に時間をかけ過ぎると香りが飛んでしまう。
 さっと点てながらもしっかりと攪拌する事が重要である。

・製法について

 茶摘み→冷蔵保管→よりわけ→碾き上げ、となる。
 五月十日過ぎから茶摘みを始める。摘み取ったらすぐに蒸し、乾燥させる。こうしてできあがった碾茶は茎や葉脈の混ざった状態の荒茶である。専用冷蔵庫に保管するが、保管後も熟成が進み、味が良くなる。
 時期になると冷蔵庫から出し、荒茶を切断。そこから茎、葉脈を除去してよりわけていく。手や風、静電気を使ってよりわけている。間に乾燥火入れを行いつつ、何度も選別を繰り返す。完成する茶はもとの新芽の約十分の一になる。碾き上げは昔ながらの臼を使っている。一臼で碾けるのは一時間に四〇グラム弱という量である。臼が並んで回っている部屋は密閉されており、温度、湿度が徹底的に管理されている。風で少しでも飛び散らないように空調のコントロールも徹底している。(写真は、今回特別に撮影させていただきました)
 出来上がった茶葉を吟味、評価するための部屋は北向きの自然光を取り入れる設計で、壁などが全て黒で統一されている。飲み込むとわからなくなるので、口に含むだけで比較していく。)

左から右への順。いくつもの工程をへて選別が繰り返される

・昔の製法について

臼が並んで回る

利休の頃は今よりだいぶ濃い薄茶を点てていた。江戸初期ごろから時代を経るほどに薄くなっていったという。江戸初期の「以前よりもさらに薄く点てた」という記録の茶を再現してみると、現代の濃茶とあまり変わらない濃さをしている。
 このような飲まれ方であるにも関わらず江戸期は今よりも茶葉がだいぶ苦い。そこで今より早い時期に芽を摘んでいた。若くて小さな芽は苦くないものの味が弱めになる。また色も白っぽい。茶銘に「白」の文字が使われる由来である。
 古田織部の頃に茶の芽を灰汁に浸して茹でる事で鮮やかな緑色を出す製法が考案されたが、風味が弱く、現在では覆期間を長くし、茶摘みを遅くした結果、十分に緑色と味が出るようになったので、その方法は行われなくなった。  現在の丸久小山園では「昔」や「白」という字に囚われず固有の名前を付けるようになっている。

○取材させていただいて

 深い知識や高い見識のみならず、作られている茶に対してのプライドが感じられるお話を伺えました。
 普段、我々が茶会や茶事で用いる茶葉は、いつも使っている銘柄を何となくそのまま選んでしまう事も多いですが、自分でしっかり味わってから自信をもって使えるようになりたいと思わされました。

  ●『水屋日記』連載記事一覧


©2020 edosenke
表紙へ歴 史流 祖茶 室茶の湯のすすめ会報から不白会行 事ご案内出版物事務局サイトマップ