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■ドイツからの便り No.12■

●「表点て」の試み●

野尻 明子 (ドイツ在住)
自宅居間での稽古  十月二十四日、近くの大学町エアランゲンにある合気道クラブのひとつから、創立四十周年記念講習会に伴う行事として、茶の湯を依頼されました。ちょうど十年前に一度、このクラブで茶の湯を紹介したことがあったからです。
 大抵のドイツ人は、「お金さえ払えば、誰でも好きな茶会に参加し、接待してもらえる」と思っているので、私は、Teezeremonie でなく、「茶の湯の雰囲気が味わえる入門講座」をするということで、道場長のシュヴァインツァーさん(五段)に了承してもらいました。
 イタリアのフィレンツェから招かれた特別講師のルグリオーニさん(八段)も加わって参加者は二十名、私が「茶の湯にようこそ」と手をついて挨拶すると、皆さんが、丁寧に頭を下げて日本式の返礼をしてくれました。今でも市民大学等でドイツ人の無礼に悩まされている私は、ここでもうすっかり感激してしまいました。(ちなみに、平均的なドイツ人は、事前に私が注意しない限り、全く私の挨拶に反応しないか、脚を組み、テーブルに頬杖をついて私を上から見下ろします。)
 お菓子を「お先に」「どうぞ」と日本語で挨拶しながら取って戴いた後、茶の湯について最小限の事柄を説明しながら、ゆっくりお点前を進めましたが、平素の合気道の稽古の賜物か、皆さんの動作は落ち着いていて、他者への自然な思いやりが感じられました。
 とはいえ、私は、茶の湯を知らない二十名の参加者が受身で退屈しないよう、思い切った構成を試みました。半東を付けず、参加者に自分でお茶を取りにきてもらったのです。崇敬されているふたりの先生にも、です。
 また、私は、誰が誰にお茶を点てているのかわかることが茶の湯の基本、と考えているので、若く熱心な生徒、ジャクリーンに、 自宅居間での稽古 私の斜め後方で、「陰点て」ならぬ、「表点て」をお盆でしてもらいました。
 これで、正座(胡坐も)が苦手なドイツ人達の座る時間が短縮できた上、自分でマナーに従って動くことで、参加しているという実感を持ってもらえましたし、私から離れたところに座っている人も、お盆点てを見ることで絶えず視覚的な刺激を受け、集中力を持続できたように思います。
 終わりの挨拶をした後、皆さんがすぐに笑顔で集まって来て、「こんなに暖かい静かな気持ちになれるなんて」と言って下さり、「一座建立」の喜びに浸りました。(ひとつの大きな失敗については、紙面の都合で省略させて戴きます。)(ドイツ在住)

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