筝曲演奏家渡辺治子さんの演奏と共に
私の知人で、宇和島市にお住まいの筝曲演奏家、渡辺治子さんが、今年も八月中旬にヨーロッパへおいでになったので、「箏と茶の湯」という催しを九月四日(土)の夜、Forchheimという町の合気道道場で初めて試みました。この外観も音色も美しい楽器は、ドイツではまだ、尺八以上に未知の存在です。
半東は、ドクター・プレッツと、合気道四段の友人ゲルハルトの二人が勤めました。
武道を三十五年間学んでいるゲルハルトの正座姿はいかにも清々しく、深く落着いていながら、自由なゆとりが感じられました。「守破離」のプロセスを、彼は武道を通じて学んできたのでしょう。
袴が初めてのドクター・プレッツも、稽古では裾を踏まずに立ち上がる動作に苦心していましたが、当日は、静かに誠意あふれる態度で参加者にお茶を供しました。
今回も、ほとんどの参加者に、椅子でなく、床に座ってもらいましたが、初めてのドイツ人に、「茶の湯は眺めて楽しむものではなく、共演するもの」と実感して欲しかったからです。背もたれに寄りかかり、組んだ足を突き出して座る人たちを前に、心を込めてお茶を点てることはできません。
空合気道四段のゲルハルトさんの半東
待つ時間が長くなる大寄せの茶会では、どうしても未経験の参加者の緊張感が持続せず、雰囲気が散漫になりがちですが、渡辺さんの魔法のような指の動き、澄んだ箏の音色が座に隙間を生じさせず、大変密度の濃い空間を作りあげました。また、お箏の音が途切れた時、柄杓からゆっくり落ちるお湯の音を私自身、いつになく深く味わいました。よい音楽によって、静寂が深まることを実感したのは、わたしだけではなかったと思います。
成功を祝い記念撮影
参加者の皆さんが、「Danke!(ありがとう)」と感動の面持ちで帰って行かれた後、私たち、企画・実行チームは、近くのイタリアンレストランで遅い夕食を取り、成功を喜び合いました。この席で、渡辺さんが、「お点前が見せるためのものではなくても、見て美しい所作に心を惹かれてお茶に関心を持つ人は、少なくないと思います。」とおっしゃったのが、心に残りました。
私の「箏と茶の湯」という思いつきを温かく支援してくれた友人達は、来年ぜひ、この道場でJimとの「尺八と茶の湯」を実現したい、と意欲的です。